東京の路地に一歩入ると、地図アプリの矢印と目の前の道がかみ合わなくなる瞬間がある。入った道はその先で一方通行、抜けようとした細街路は車止めで行き止まり、大通りに戻れば渋滞の列。クルマで高速道路を走るのとは、まったく別の難しさがそこにある。これが 都市ナビゲーション、つまり都市部の移動をどう案内するかという問題だ。
先に正直に書いておく。私は街なかを二輪で毎日走っていて、この記事の最後で紹介する Urban Rider という二輪・マイクロモビリティ向けのナビアプリを自分で作っている。だから完全に中立ではない。それを承知のうえで、この記事では都市ナビゲーションとは何かをはっきり定義し、なぜ都市部の移動はこれほど難しいのか、そして街なかナビに本当に必要なものは何かを、できるだけ事実に即して整理していく。
都市ナビゲーションとは何か
都市ナビゲーション とは、人や建物が密集した街なかを移動するための経路案内のことだ。長距離や高速道路を前提にしたカーナビとは違い、短い距離、低い速度、そして一方通行や細街路、自転車レーン、渋滞、駐車といった都市部ならではの条件に合わせて最適な道を選ぶ。ひとことで言えば、「速く遠くへ」ではなく「街なかを賢く抜ける」ための案内である。
高速道路のナビと都市ナビゲーションは、見ているものがそもそも違う。前者が問うのは「どのインターから乗り、どこで降りるか」だ。後者が問うのは、次のようなことになる。
- その道を走れるか。 一方通行の向き、自動車専用道路、歩行者専用区域、車両の区分による通行の可否。
- いま混んでいないか。 信号の多い交差点、時間帯による渋滞、工事や荷さばきによる車線のふさがり。
- 低速でどれだけかかるか。 時速60キロで流れるクルマではなく、街なかを走る乗り物の現実的な所要時間。
- 最後にどこへ停めるか。 目的地のすぐ近くで、安全かつ合法に停められる場所。
都市の移動が公共交通からクルマ、自転車、そして電動キックボードや原付といったマイクロモビリティへと多様化するほど、この「街なかをどう案内するか」という問いの重みは増していく。マイクロモビリティ全体の広がりについては、マイクロモビリティとは何かを解説した記事もあわせて読んでほしい。
なぜ都市部の移動はこれほど難しいのか
欧州の都市には、排ガス規制の厳しい車両を締め出す低排出ゾーン(ロンドンのULEZ、パリのCrit'Air、ベルリンの環境ゾーンなど)がある。日本にはそうしたEU型の環境ゾーンはない。だからといって街なかの移動が簡単なわけではなく、日本の都市には別の固有の難しさがある。
一方通行と細街路
東京をはじめとする日本の都市は、戦前からの区画や住宅地がそのまま残り、一方通行と細街路が網の目のように入り組んでいる。地図上では最短に見えるルートが、実際には逆向きの一方通行だったり、クルマがすれ違えない幅の道だったりする。クルマで来た人が曲がれずに往生する路地を、二輪なら静かに抜けられることも多い。どの乗り物で走るかによって、最適な道はまるで変わってくる。
渋滞と信号
都心部は信号が密で、交通量も多い。大通りをまっすぐ進むより、混雑を避けて細い道をつなぐほうが速いことは珍しくない。渋滞を読み、いまどの道が流れているかをリアルタイムで反映できるかどうかが、街なかナビの実力を分ける。
自転車レーンと自転車通行可
近年は都市部で自転車レーンや自転車専用通行帯の整備が進み、車道の左端に青く塗られた帯を見かけることも増えた。歩道についても「普通自転車等及び歩行者等専用」の標識がある自転車通行可の区間がある。自転車や、後で触れる特定小型原付にとっては、こうした通行できる空間を踏まえて走ることが安全につながる。どこを走ってよいかは乗り物の区分で違うため、案内する側もそれを理解している必要がある。
原付の二段階右折
日本の都市部の移動で見落とされがちなのが、二段階右折のルールだ。原付一種(総排気量50cc以下)は、信号があり車両通行帯が片側三車線以上ある交差点や、二段階右折の標識がある交差点では、直接右折せず二段階右折をしなければならない。これを怠ると交差点右左折方法違反となり、反則金3,000円と反則点数1点が科される。なお原付二種以上では二段階右折は不要だ。都市部は大きな交差点が多いため、どこで二段階右折が必要になるかは、街なかを走るうえで実は無視できない要素になる。
駐車とラストワンマイル
そして都市の移動の最後に待つのが駐車だ。東京のような街では、目的地まで早く着くことより、近くで安全に停められる場所を見つけるほうが難しい場面が多い。二輪や原付は駐輪場や二輪用の区画を使えることが多いが、停められる場所は限られている。目的地そのものではなく、その手前のラストワンマイルと駐車までを含めて考えられるかどうかが、都市ナビゲーションの実用性を左右する。
都市の移動を変えるマイクロモビリティ
こうした街なかの難しさのなかで、急速に存在感を増しているのがマイクロモビリティだ。電動キックボード、電動アシスト自転車、小型のスクーターや原付といった軽くて低速の乗り物は、渋滞と駐車に悩む都市にちょうど良くはまる。LUUPのようなシェアサービスは東京や大阪を中心にポートを広げ、駅から目的地までの短い区間を埋めている。
2023年7月には特定小型原動機付自転車という区分が新設され、最高時速20キロ以下などの基準を満たす電動キックボードは、16歳以上であれば免許なしで乗れるようになった。前述のとおり、この区分は信号のある交差点では原則として二段階右折を行う。気軽に乗れる一方で、走ってよい場所や曲がり方には街なか特有のルールがある。だからこそ、こうした乗り物が増えるほど、乗り物の種類を理解した都市ナビゲーションが今まで以上に必要になる。
良い都市ナビゲーションの条件
では、街なかの移動に本当に向いたナビとはどんなものか。長距離カーナビの延長ではなく、都市部の移動そのものに合わせて設計されているかどうかが鍵になる。
- 乗り物の種類を理解している。 クルマか二輪か原付か自転車かで、走れる道も最適な道も違う。その区分を前提に経路を描けること。
- 低速でも正確。 時速15〜30キロの移動で所要時間や曲がる地点を正しく案内できること。クルマ前提の到着時刻では街なかでは当てにならない。
- ひと目でわかる画面。 走行中にちらっと見て読み取れる、情報を絞った表示。ごちゃごちゃした地図は街なかでは危険ですらある。
- 街なかのルールに沿っている。 一方通行や通行できる道の区分を踏まえ、走れない道へ案内しないこと。
- プライバシーを守る。 毎日の移動の記録は、できるかぎり手元にとどめられること。
クルマ向けの大手ナビはどれも完成度が高い。だが Google マップや Yahoo!カーナビは、もともと四輪の運転のために作られている。最高時速20キロの電動キックボードや30キロの原付に対しても、平均的なクルマと同じ発想でルートと到着時刻を計算しようとするし、車両の区分まで理解しているわけではない。手動で回避設定を入れない限り、本来そうした乗り物が走れない自動車専用道路へ案内してしまうこともある。街なかを低速で走る乗り物には、その速度と通行ルールに合わせて設計された道具がふさわしい。各アプリの向き不向きをもっと知りたい人は、スクーター・原付向けナビアプリの比較を参照してほしい。
Urban Rider はどう都市ナビゲーションをするのか
ここからは私が作っているアプリの話なので、その分は割り引いて読んでほしい。Urban Rider が存在する理由は単純で、ここまで挙げた大手のどれもが、街なかを二輪やマイクロモビリティで走る人のために作られていないからだ。
このアプリは、あなたの 乗り物 を出発点に置く。スクーターや原付のプロファイルを選べば、高速道路、自動車専用道路、多くのトンネルをデフォルトで除外する。日本を含む多くの国で、こうした乗り物はそこを走れないからだ。到着時刻も、同じ道を流れる平均的なクルマではなく、二輪やマイクロモビリティの現実的な速度をもとに計算する。一方通行や細街路の入り組んだ都市部でこそ、この違いがそのまま使い勝手の差になる。
走行中は ミニマルモード が画面を、次の指示、距離、自分の速度だけに絞る。ハンドルにマウントしたスマホをちらっと見て読み取れるのは、せいぜいその程度だからだ。次の曲がり角は Apple Watch にも表示されるので、スマホはハンドルに固定したままで済む。電動で走るライダーには、ルート沿いの充電スポットも示す。料金は無料で、アカウントは不要、走行履歴は端末内にとどめてサーバーに吸い上げない、プライバシー重視の設計だ。
正直な注意点も書いておく。大手に比べればまだ新しく規模も小さいし、現在は iOS が先行 していて、Android はオープンベータで進めている。それでも、街なかの移動を後回しにするのではなく、街なかの移動そのものを起点にしたナビは、都市部を二輪で走る人にとって試す価値がある。東京での走り方をもっと具体的に知りたい人は、東京でスクーターに乗るための記事もあわせて読んでほしい。
これからの都市と、街なかの移動
都市ナビゲーションは、地図アプリのおまけ機能ではない。都市が混み、駐車場が高くつき、移動の手段が多様になるほど、街なかをどう案内するかという問題は重みを増していく。一方通行と細街路、渋滞、自転車レーン、原付の二段階右折、そして駐車。日本の都市にはEU型の環境ゾーンこそないが、固有の難しさが確かにある。次に整っていくべきなのは、こうした街なかの現実に合わせて作られたナビと、安全に走るための知識だ。都市部を移動するなら、その移動の仕方そのものに合わせて作られた道具を、一度手にしてみてほしい。
よくある質問
都市ナビゲーションとは何ですか?
都市ナビゲーションとは、人や建物が密集した街なかを移動するための経路案内のことです。長距離や高速道路を前提にしたカーナビとは違い、短い距離、低い速度、そして一方通行や細街路、自転車レーン、渋滞、駐車といった都市部ならではの条件に合わせて最適な道を選びます。東京のように道が入り組み交通量の多い都市では、どの道を走れるかと、いまどの道が混んでいるかを正しく扱えることが、都市ナビゲーションの良し悪しを決めます。
都市ナビゲーションは Google マップや普通のカーナビと何が違うのですか?
Google マップや一般的なカーナビは、もともとクルマで長い距離を移動することを前提に作られています。平均的な速度の四輪を想定して到着時刻を計算し、車両の区分まで理解しているわけではありません。都市ナビゲーションはその逆で、低速で短い移動、入り組んだ街路、その乗り物が走ってよい道かどうか、そしてリアルタイムの混雑を重視します。原付や自転車のように高速道路を走れない乗り物では、この違いがそのまま使い勝手の差になります。
都市部の移動に一番向いているナビアプリは何ですか?
一番向いているのは、あなたの乗り物の種類を理解して街なかの速度に合わせて案内するアプリです。クルマ向けの大手ナビは便利ですが、二輪やマイクロモビリティが走れない道へ案内したり、到着時刻が当てにならなかったりします。Urban Rider はクルマではなく二輪やマイクロモビリティを起点に作られた都市ナビゲーションのアプリで、スクーターや原付のプロファイルでは高速道路や自動車専用道路をデフォルトで除外し、低速に合わせて所要時間とルートを計算します。無料で、アカウントも不要です。
原付や特定小型原付の二段階右折は都市ナビゲーションに関係しますか?
大いに関係します。原付一種は、信号と車両通行帯が片側三車線以上ある交差点や、二段階右折の標識がある交差点では二段階右折が必要です。2023年7月に新設された特定小型原動機付自転車は、信号のある交差点では原則として二段階右折を行います。都市部はこうした大きな交差点が多いため、街なかの移動ではどこで二段階右折が必要になるかを意識して走ることが安全につながります。
都市部で駐車場所を探すのもナビの役割ですか?
重要な役割のひとつです。東京のような都市では、目的地まで早く着くことよりも、近くで安全に停められる場所を見つけることのほうが難しい場面が少なくありません。二輪や原付は駐輪場や二輪用の駐車区画を使えることが多い一方、停められる場所は限られています。最後の数百メートルと駐車までを含めて考えられることが、都市ナビゲーションの実用性を大きく左右します。
